９０式戦車は採用後１０年以上経過しても大規模な改修を１度も行っておらず、
相対的な戦力の低下を懸念する声が様々な方面からあった。改修による性能向上を
行わないのは自衛隊の体質に問題があるとも言われるが、９０式戦車については
これは当たらないであろう。なぜなら、９０式戦車の５０ｔという重量は国内で
運用するにはほぼ上限であり、重量増加を伴う改修は国内での運用に大きな制限を
課すことになる。専守防衛を旨とする自衛隊にとってはありえない選択肢であった。
しかし、防衛省への昇格や自衛隊法の改正により自衛隊の活動が海外へ広がりを
みせる事によって、ありえない選択肢であった９０式戦車の大規模改修が現実のもの
となった。海外任務は非対称戦を始め、多様な状況に対応できる能力が求められ、
遂に重量制限をある程度考慮しない大規模改修が許されることとなったのである。
開発は防衛省技術研究本部により２００５年度より開始され、下記の項目を目標とした。
①
・全周視察可能なサイト（パノラマサイト）の装備。
（パッシブ暗視装置、レーザー測遠機を備える）
また、２基装備し、いずれの乗員からも操作可能として視察能力を高めると共に
乗員の車外への露出を避ける。
・操縦手用視察カメラの装備。（同上の理由）
・１２．７ｍｍ機銃のリモートコントロール化（同上の理由）
機銃の管制はパノラマサイト、レーダー（後述）のいずれからも可能。
・対人榴弾の装備（ＶＬＳ内に装備）
ＶＬＳは対人榴弾、対空榴弾、発煙弾などが発射可能
②
・増加装甲の追加（複合装甲、スペースドアーマー）
・対電磁波ステルス性の付与（外形の形状適正化によるＲＣＳの低減、電磁波吸収シートの貼付）
・レーダーと対空榴弾から成るアクティブ防御システムの追加
③
・１２０mm砲を６２口径に延長し、更に新開発のＡＰＦＳＤＳを用いることで、
距離５０００mにおいて殆どの現用ＭＢＴの正面装甲を貫通可能と言われる。
また、１２０mm砲の管制にもレーダーの使用が可能。（但し使用可能な環境は
現状ではかなり限定される）
①非対称戦への対応（対人攻撃能力の強化、乗員の保護）
②防御能力の強化（装甲強化に止まらないアクティブ、パッシブ両面での強化）
③攻撃能力の強化（近年のＭＢＴの装甲強化に対応した主砲の貫徹能力の向上）
６２口径１２０mm滑腔砲 ×１
１２．７mm機関銃 ×１
７．６２mm機関銃 ×１
垂直発射装置 １２セル
主砲は口径を６２口径に延長した１２０mm砲で、ステルス性を付与する為のカバーを
取付けている。７．６２mm機関銃は９０式と同様に１２０mm砲と同軸に取付けられている。
１２．７mm機関銃も９０式と同じＭ２だが、遠隔操作式の動力銃架にマウントされており、
レーダーまたはパノラマサイトによる管制が可能。
垂直発射装置はバスル後方にレーダーを挟む形で６セルずつ合計１２セルを装備し、
各種榴弾などを装填することが可能。弾種は以下の３種。
①発煙弾・・・９０式と同様のもの。
②対人榴弾・・・短射程の迫撃砲形式で、可動式の砲架となっており、任意の方向への発射が可能。
③対空榴弾・・・ＲＰＧや対戦車ミサイルから能動的に防御する為に開発されたもの。
車載レーダーにより発見された目標の未来位置に向かって発射され、
近接信管により炸裂し目標を破壊する。
砲塔前面、側面、車体前面には複合装甲を追加。砲塔上面やサイドスカート前半部分
にも軽量な複合装甲を追加している。バスル上面やサイドスカート後半部分はスペースドアーマー
としている。また、砲塔、車体の主要部位には電磁波の反射を低減する樹脂シートが貼り付けられている。
サイドスカート下端部には樹脂シートが取付けられ、転輪からの赤外線放射を抑制する。
パノラマサイト、前照灯ユニットには開閉式の防弾扉を設けている。
○センサー類
砲手用サイトは変更されていないが、車長用サイトはパッシブ暗視装置、レーザー測遠機を備えた
全周視察可能なものに変更されている。
バスル後部にはアクティブフェイズドアレイレーダーを４面に備えたユニットが追加されている。
１２０mm砲の管制にも用いる為、前面のみ素子数が多いものを設置している。
ユニット上には車長用と同型のサイトと、レーザー警戒装置を備える。
大幅に増加した電力消費を考慮し、レーダーユニット内にはＡＰＵを備えている。
○その他
車体前面に装甲が追加された為、前面の灯火類はフェンダー上のユニットにまとめられている。
砲塔側面には乗員用のエアコンが追加されている。